ルポ:奔流(巨龍)、シハヌークビルを洗う

                           

2018年03月27日

止めどもない中国の勢い

久方にシハヌークビルへ行くとその急激な変貌ぶりに驚く。先ずは距離の遠さ、かつては車で4時間弱の距離であったが、今は途中休憩を入れて6時間はかかる。プノンペン市街の渋滞はもとより、シハヌークビルの街中も渋滞が珍しくはない。かつてはのんびりした海辺のリゾート地であったが、街中は埃ぽくなった。ひっきりなしに車両が走る街中では、登下校の児童が心配という。観光客が増えたというより、遠くからカンボジア人が集まって来たようだ。それだけ仕事が増えたということだろう。街中には赤い色彩の看板にクメール・中国語併記が目立って増えた。聞けば、カンボジア人の就職も英語より中国語の需要が多い、という。
昨年末の31日、ロイター通信の記事「焦点:カンボジアに<第2のマカオ>誕生か、中国投資が加速」は少なからぬ反響を呼んだ。ロイター通信がカンボジアを焦点に記事を配信するのは極めて稀な事、早速、ロイター配信記事がニューズウィーク誌や日本の大手新聞・雑誌に取り上げられ、後追い記事が「中国とカンボジアの緊密化」をテーマに今なお続いている。ここ数年、カジノに流入していた中国マネーは、ここに来て一気に街全体を覆うかのような勢いがある。「中国が掲げる<一帯一路>の最初の港湾としてデベロッパーが喧伝する都市への変貌が確実視されている。」とさえロイターは述べる。確かに4号線がシハヌークビル港湾の眺望に差しかかる手前右手の中国主導の経済特区は、見るからに工場数、その規模共に増大している。港湾に隣接する一等地でありながら、空き地の目立つ日本主導の経済特区と誰しもが比べてしまう。また、シハヌークビル空港には3機の旅客機を見る。今やプノンペン空港に乗り入れる外国からの直行便は中国が10都市、他はベトナム2都市、それ以外は日本を含めて1都市に過ぎないという中国が圧倒的な存在感を示し、シハヌークビル空港も中国が5都市、他のシンガポール、ホーチミン、クアランプールと大きく水を空けている。カンボジアにとって中国は最も近い国となっている。ここに来て中国資本によるプノンペン―シハヌークビル間の高層道路建設も着工される。もはや止めどもない中国の勢いである。

インデペンデンス・ビーチ、手前は整備された海浜公園、背後の建設中の高層ビルは中国投資によるホテル、コンドミニアム。

 インデペンデンス・ビーチ地区は様変わり

シハヌークビルで中国マネーの力を見せつけられるのは、先ずはインデンス・ビーチ地区の景観。老舗ホテルのホリディ・パレスの向こうには3つの高層ホテル建設中、また街中からビーチへの直線道路沿いにも中国人投資向けの高層マンションが続々立地、建設中である。海から見るにインデペンデス・ビーチ隣接の小高い森は切り払われ、浜辺は建設中のホテルのプライベートビーチと化すのだろう。また、街中からオートレス・ビーチに向かう道路沿い、かつての湿地帯の森と原野が広大な造成地に変貌し、巨大クレーンが数基稼働中であった。塀で囲われた広大な造成地の入り口にでかでかと中国新体漢字を見る。プノンペンでは、規制されているカジノが、ここでは野放し状態。ライオン像のロータリー周辺は、ホテルの間に次々とカジノが立地している。シハヌークビルは中国人の遊興の街になりかねない。

中国化の流れに抗して気を吐いているが、わずかに人気のロン、ロン・サムレム島に渡る桟橋に至るセレンディピティ・ビーチへ道沿いに立地するレストランやショップ。ここではクメール語・英語併記が主流である。が、大型ホテルはいち早く漢字表記を取り入れている。行き交う旅行者は欧米系が主流で、そこに声高な中国人の小グループを見る。また、街から離れたオートレス・ビーチは、きれいな海と個性競うバンガローやリゾートホテルの立地で人気だが、まだ、ここには中国化の波は押し寄せていない。

リゾート感あふれるオートレス・ビーチ

 南国の憩いなら沖合の島々かオートレス

シハヌークビルに南国の憩いを求めるなら、沖合の島々かオートレス・ビーチとなる。しかしここも時間の問題か?すでに中国化の動きが見られ、オートレスの数ホテルと交渉を開始しているとのこと。今後が気になるところだ。

 中国人リゾート開発GM、「ここは、第二マカオになる」と豪語!

先のロイターの記事では、38階建てリゾートマンション:ブルーレイ・リゾート開発を手掛ける中国人GMが「ここは、第二マカオになる」と豪語しているが、シハヌークビルが中国人の遊興の街になると想定しての発言。奔流のような中国マネーによる地価高騰、街やビーチの中国化に耐えかねて、シハヌークビルでは欧米系居住者は減り、他に移っているという。また、当然の如く中国の進出に懸念や反発を示す地元の人もでてきている。既にカンボジアの海外線の30%は、中国企業の租借地とのことである。

広大な原野や森が中国からの投資で造成地となっている。ー街からオートレス・ビーチに向かう途中ー

 租借地 歴史の亡霊か、皮肉か

2014年、シハヌークビルとコンポンソム湾を挟んだ対岸に10年計画の一大開発を進めるボトムサッコー・リゾートを取材した時、中国企業グループが「カンボジアから租借、99年間」と聞き、驚いた。高校の世界史授業以来の言葉である。かつて上海には欧米や日本の租界(治外法権、軍の駐留地区)があり、香港はイギリスの99年間の租借地、マカオはポルトガル支配であった。それが中国近代の苦悶の歴史であった筈。歴史の亡霊が現れたのか。否、皮肉と言うべきか。

気持ち良さげにロビーのソファーでリラックスする中国人客。
チェックイン後、慌てて上着片手に部屋からロビーに来て忘れ物を探す中国人客。

 カンボジア人の間にに広がる懸念

中国の租借地は「カンボジアであって、カンボジアではない」となる。こうした懸念は、カンボジア政府当局にもあるようだ。地元紙の報道では、国家最高経済評議会のメイ・カリヤン上級顧問が、「中国からのインフラとエネルギー開発援助がカンボジア経済の発展に大きく貢献している点を評価」しつつ、「巨大な中国資本に関わる経済的決定には注意を払わなければならない。」、「我々は経済的、社会的な影響や環境への影響に注視すべきだ。中国の強大な共産主義体制に対し、私たちは非常に小さい自由経済体制だからだ。」と説明したという。
巨大な奔流(龍)、シハヌークビルを洗う。街は美しくなるのか、醜くなるのか、人によって意見の分かれるところだろう。

「遊興の街にはならないだろう」と語るHun Manet氏(フンセン首相の護衛組織RCAF統幕事務局)

*上記のルポは、2018年1月現在の情報です。このルポは、3月発行のDiscover New Asia No.16のP22-23に掲載されたものです。

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